2012年7月20日金曜日

Fallen Words


 

先日、仕事を通じて親しくなった人に誘われて落語を見に行った。場所は経堂にあるさばの湯。ライブで落語を見るのはこれが初体験。さばの湯のサイトを覗いてみたら、浅草などで見かけるような本格的な舞台ではなく、銭湯の一角で、客をもてなすために行われているようなアットホームな雰囲気だったので、これならわたしでも!、と思って行ってみた。いや、むしろこれは「行きたい!」と思った。だって、こんな空間素敵すぎるもの。東京の、それも経堂の一角の銭湯で落語が見れるって、いいじゃない。ね?

 ところが、実際は銭湯の一角ではなく居酒屋の一角でした。お店のコンセプトは「屋台のような銭湯のような寄席のような呑み屋カフェ」……、ん? あ、「銭湯のような」っていうことは一概に私が間違えているわけでもないんだね。

 本格的な寄席に行ったことがないのでわかりませんが、このお店に集う人の雰囲気こそが本来の寄席なのでは、と思える庶民さがあふれていて、ここに行くことができて本当によかったです。

 私が見たのは桂吉坊さん。見た目は高校生、本当は30歳くらい(?)。最初に写真を見せてもらったときは、本当に高校生だと思ったよ。でも落語を聞けば、立派に経験を積んできたそれなりの年齢の人なんだとすぐにわかる。この日の演目は「七度狐」と「船弁慶」。どちらもとっても面白かった。話の内容、オチ、構成といった作家の成果として素晴らしさと、それを演じる噺家のすばらしさ。このふたつの息が合わないと落語の面白みは急激に激変してしまうでしょう。逆に言えば、噺家が変わるとそれだけ落語のオリジナリティも変化してくるということで、噺家の数だけ落語は面白みがあるのだね。

 この日一緒に行ったかたは、バイリンガルでありながら、日本の伝統芸能を研究しているパワフルな女性。落語のことなどなんにも知らない私に、「本物の落語は始まるまでの話は枕って言うのよ」、「あれは膝隠し」、「大阪と東京では落語家の昇進システムが違うのよ。関西は真打ち制度がなくてすべて実力次第。東京は真打ち制度があって、そのシステムに合わせて昇格した人の位が高いとされるの」、「上方の落語は、太古や三味線の音が入ってもいいんだけど、東京では入らないわね」、「上方は落語をやるときに前にテーブルを置くけれど、東京は座布団に正座するだけ、テーブルはなし」というような落語を見るには最低限の知識をその場で伝授してくれた。

 吉坊さん(落語家の名前は下の名前で呼ぶのが普通。そうでないと、一門で活躍している人が多いので、名字だけだと混乱してしまうため)の落語は本当におもしろかった。吉坊さんのファンになると同時には、私は落語に興味が沸いてしまってムンムン! だって、こんなに斬新で洗練されていて、日本人ならではの感覚でしか楽しめない伝統芸能はないでしょ。バイリンガルの人に聞いたけれど、落語のよさを英語で伝えるというのはヒジョーにヒジョ-に難しいらしい。そりゃそうでしょうよ。まず、大前提として日本語がわからないといけない、それから文化的な背景も少しはわからないといけない。また、日本語や日本文化をチラリと学習したところで、日本人的な価値観まで吸収するのは不可能でしょう。落語で笑うためには、この3点、日本語、歴史的知識、日本人特有の価値観が必要だと思います。
 
 一応私は日本語ネイティブだけれども、歴史的知識と言葉の絶対数が少ないために、落語を追いかけるのが大変なところは数か所ありましたね。だって、話すスピードが速いんだもの。これもダイナミックな演出のひとつなのでしょう。

 私が一番最初に落語に興味を持ったのは『タイガー&ドラゴン』。単純にストーリーが面白すぎて、毎回録画して見ていました。リアルタイムでも見ておきながら、ついこの間TSUTAYA100円レンタルしちゃいました。このドラマのおかげで落語の大枠もつかめたし、落語のコメディ感を現代にアレンジしちゃうクドカン(くんく)ってなんてハイセンスなのかしら、と思ってしまいます。このドラマのおかげで知っている落語の演目の名前も出てきたりして、嬉しい。




 さて、今は『桂吉坊がきく藝』を読んでいます。落語を勉強するために、これを読めーい、ということで借りました。おもしろい! 落語だけでなく、能、漫才、歌舞伎、文楽などで活躍されている先輩のかたがたに吉坊さんがインタビューをしていきます。落語の演目や内容はもちろん(今の段階では)意味不明だけれども、難しいところには注釈がついているので、注釈とにらめっこしながら読破しました。

 いやー、私はまだまだ勉強不足。落語だけでもこれだけ知らないことがあるのに、他の伝統舞台はどうなっちゃうのかしら。最後にもう一度言うけど、落語は本当におもしろい。
別の演目も必ず見に行こう。もっと若い人で一緒にこういうのを楽しめる人が増えるといいな。